九州大学法学部

2006年度 「憲法 II (人権論)」

定 期 試 験

問題講評 優秀答案例 成績分布

担当教員:南野 森

 

問題講評

2007年2月11日更新

【問一】 問題にかかげた文章は、最高裁判所2006年3月23日第一小法廷判決(熊本刑務所発信不許可事件)の一部を改変したものです。この判決については、第7回講義で検討を行いました。少なくとも(1)いわゆる「在監者」の人権(いわゆる「特別権力関係論」など)についての論点を押さえたうえで、(2)この判決がいわゆる「合憲限定解釈」の手法を採っていると考えられることを指摘し、このような手法についての問題点を検討することが、合格答案としては必要であると思います。さらに(3)監獄法の改正についての正確な記述があれば、それも加点対象とします。

 「二重の基準論」は、本問には直接の関係がありません。(1)「在監者」が特別権力関係にある者の典型であるとされてきたことや、伝統的な「特別権力関係論」とはいかなる理論であり、それが現在の学説・判例ではどのように評価されているのかを簡潔にであれ正確に記載していれば20点前後の得点があります。(2)本判決が採用したと考えられる「合憲限定解釈」手法について、それが一般にどのような「功」「罪」を持つのか、また、未決拘禁者の事案であった「よど号事件」判決と受刑者の事案である本判決との関係はこの点からどのように評価できるのか、等についてのまとまった記述があれば25点前後の得点があります。特別権力関係論についての記述が一切ないと、単位取得は難しくなったかも知れません。

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【問二】 少なからぬ人が公務員の「人権」が出題されると予想していたようですね。本問では、(1)これまたいわゆる「特別権力関係」に属するとされてきた公務員の権利制約について、実定法の仕組みがどうなっているかということ及び学説がどのように考えているのかということ(ただし実定法の規定については、小六法を貸与しなかったことを考慮して採点します)と、(2)公務員の労働基本権制約をめぐる最高裁判例の流れをまとめることが、合格答案としては必要であると思います。さらに(3)「司法の激動」「揺れる司法」と呼ばれた1960年代後半から1970年代前半にかけての最高裁をめぐる動きについての正確な記述があれば、それも加点対象とします。

 「猿払事件」は、本問には関係がありません(ただし(3)司法の激動期との関連を除く)。多くの答案が、(2)公務員の労働基本権制約をめぐる最高裁判例の流れを三期に分けて記述するという方法を採用していました。初期の「全体の奉仕者」説(「政令201号事件」)から第二期の「全逓東京中郵」「都教組」、そして第三期の「全農林」以降へという流れをきちんとまとめ、それぞれの有名判決がどのような判断をしたのかが正確に書かれていれば、40点は得点できるように配点しています。本問で25点以上の得点がない答案は、単位取得が困難となったようです。条文(○条○項)の間違いはとくに減点していませんが、法令名の引用間違いや、判決の引用間違いはマイナス評価になります。

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*****

 あえて両問の性格を問うならば、問二は、いわば記憶・知識に頼るタイプの、手抜きの、あるいは単純な問題であったかも知れません。ただし答案の全体的な構成方法や文章力において評価には大きな差がでると思います。図式的に判決とその要点を暗記しているだけでは高得点には結びつかない問題であったと言えるでしょう。これに対して問一は、記憶・知識に頼るべき部分も当然含まれてはいるものの、出題者の主観的意図を探り、また、問題文に潜む論点を探るという能力が合わせて問われるものであったと思います。「信書発信の自由→表現の自由→二重の基準論→厳格審査基準→よって違憲とすべきである!」といった類の答案は、本問ではもっとも求められているはずのないものです。

*****

 

 

【問三】 講義で何度も口にしたラテン語句を三つ取り上げました。いずれも法学では比較的よく使われるものです。講義で分からない言葉が出てくれば、日本語であれ外国語であれ、辞書等にあたって調べておく癖をつけてほしいものです。

 もっとも正解率の高かったものは、ad hoc でした。mutatis mutandis について正解を書いた答案はほとんどありませんでした。講義では mutatis mutandis をもっとも多用したはずなのですが。。。

 

成績分布状況

採点・評点調整終了

2007年2月12日更新

優 上(95点以上)
1名
 (0.4%)
優 中(90点以上)
6名
 (2.5%)
優 下(80点以上)
2名
 (0.8%)
(小計) 優
9名
(3.8%)
良 上(75点以上)
7名
(2.9%)
良 下(70点以上)
12名
(5.0%)
(小計) 良
19名
(7.9%)
可 上(65点以上)
18名
(7.5%)
可 下(60点以上)
64名
(26.8%)
(小計) 可
82名
(34.3%)
(小計) 単位取得者
110名
(46.0%)
不 可(59点以下)
128名
(53.6%)
棄 権
1名
(0.4%)
合 計
239名
(100.0%)
未受験
51名
 
受講登録者
290名
 

「可下」の評価を受けた者は、本来の採点結果によれば「不可」の評価を受けるべきであったところ、調整により単位を認められることになったものである。これに対応して、それ以外の評価も本来であれば一ランク下の評価を受けるべきであったところである(ただし「優中」の一部と「優上」を除く)。

 

 

 

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